研究概要 |
本年度は長鎖ラダーポリシランの合成とラダーポリシランのジアニオンの生成について検討した。 1,1,4,4-テトラクロロヘキサイソプロピルテトラシランと1,1,2,2-テトラクロロジイソプロピルジシランをリチウムでカップリングさせることによって、六〜八環式ラダーポリシランが合成できた。X線結晶構造解析を行ったところ、ケイ素骨格は二重らせん構造をとり、両端のケイ素-ケイ素結合の間のねじれ角はそれぞれ96.4°、120.2°、128.4°であった。また、環数の増加に伴って、紫外可視吸収スペクトルにおける最長波長吸収極大は長波長側にシフトし、酸化電位は低下する。これは環数の増加に伴って、最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位が上昇し、最低空軌道(LUMO)のエネルギー順位が低下するためであることが分子軌道計算によって示された。 三環式ラダーポリシランを18-クラウン-6存在下でカリウムを用いて還元すると、ラダーポリシランのジアニオンが赤色結晶として得られた。X線結晶構造解析の結果、このジアニオンはラダーポリシランの1,2位間のケイ素-ケイ素結合が開裂した構造をもち、二つのカリウムイオンは18-クラウン-6に包接されていることがわかった。また、このジアニオンを加水分解すると、ケイ素骨格がビス(シクロテトラシラニル)からビシクロ[3.3.0]オクタシランへ転位した加水分解生成物が得られた。また、この加水分解では、三環式ラダーポリシランが相当量副生し、ジアニオンが極めて容易に酸化されることを示している。一方、このジアニオンをジメチルジクロロシランと反応させると、ケイ素骨格は転位せずにトリシクロ[5.2.0.0^<3.6>]ノナシラン誘導体が生成した。以上のような反応性は通常のシリルジアニオンでは報告されておらず、ラダーポリシランのジアニオンは特異な反応性を示すことがわかった。
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