研究概要 |
元来極めて不安定な化学種である三重項カルベンを有機磁性材料のスピン源として利用可能にすることを目的として、ジフェニルカルベンのオルト位に立体保護基として種々のアリール基を導入し、三重項カルベンの安定性を検討した。 カルベン前駆体としてオルト位にフェニル基を有するジフェニルジアゾメタンを合成し、その光分解によって発生するジフェニルカルベンの特性化を生成物分析、低温マトリックス中でのESR及びUV/vis研究、室温溶液中でのレーザー閃光光分解(LFP)によって行った。生成物分析ではほぼ定量的にフルオレン誘導体が生成していることが示された。この生成物は一重項カルベンがフェニル置換基のオルト位炭素に攻撃することによって発生したイソフルオレンの1,5-水素移動によって生成するものと考えられる。2-MTHF中77Kでのフェニル置換体の光分解によって三重項カルベンに由来するESRシグナルを観測した。また、同条件の光分解では360nm付近に三重項カルベンに由来する吸収を観測した。しかし、室温脱気ベンゼン中でのLFPでは三重項カルベンに由来する吸収は観測できず、生成物であるフルオレン誘導体のT-T吸収のみを観測した。酸素存在下のLFPでは三重項カルベンが酸素に捕捉されたカルボニルオキシドの吸収が観測され、酸素濃度に対するカルボニルオキシドの生成速度のプロットから酸素不在下での三重項カルベンの寿命を16μsと見積もった。置換フェニル基やピリジル基を有するカルベンについても同様の検討を行ったが、フェニル体とほぼ類似の結果が得られた。以上の結果、オルト位にフェニル基を有する三重項ジフェニルカルベンは母体ジフェニルカルベンよりも安定であるが、三重項カルベンもオルト位フェニル基に捕捉され、専らフルオレン誘導体を生成することを明らかにした。
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