研究概要 |
本年度はo-キノノイド構造を導入した非平面性拡張キノン系分子の合成を中心に研究を行ってきた.その過程で,やや予想外の結果にも遭遇した.合成の多様化を図るため,新たなビルディングブロックとして3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルボロン酸を合成した.この化合物は各種アリールハライド類とのクロスカップリングにより,キノン前駆体のビスフェノール体の合成に有効である.実際,1,2-ジブロモアセナフチレンとの反応では91%の収率で1,2-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)アセナフチレンが得られ,従来法に比べて収率を大きく向上できた. 3,3'-ジブロモ-2,2'-ビ(ベンゾ[b]チオフェン)との反応で3,3'-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-2,2'-ビ(ベンゾ[b]チオフェン)を合成した.チオインジゴの拡張キノン体の合成を目的として.得られたビスフェノール体を酸化したところ,予想したキノン体は得られず,キノン体が分子内環化したジスピロ[5.4.5.0」ヘキサデカ-1,4,7,9,12,15-ヘキサエン-3,14-ジオン骨格を有する化合物が得られた.この化合物は二電子還元により中央六員環が開裂し,ビスフェノキシドを与えることをCV測定およびナトリウム還元体のNMRスペクトルより明らかにした.さらに,光照射によりフェノキシラジカルの生成を示すESRスペクトルが得られ,しかもシグナル強度は光照射のオン-オフにかなり鋭敏に反応することがわかった.結合の切断を伴うビス(スピロジエノン)-ビスフェノキシラジカルの変換が可逆的に起こっていることを示唆する.
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