本研究の結果以下のことが明らかとなった 1)アリールラジカルを用いた7-endo選択的ラジカル環化によるベンズアゼピン合成は、立体的な要因ではなくneophyl転位が大きな役割を果たして、高い選択性を実現していることが明らかとなった。すなわち、中間に生じる6-exo環化ラジカルと7-endo環化ラジカルは、アリールラジカルからの直接生成ではそれほど高い選択性は見られないものの、スズラジカルの濃度を著しく低くしておいた結果、6-exoラジカルが7-endoラジカルに転位することで選択性が向上することが明らかとなった。この転位は6-exoから7-endoへの一方向にのみ進む非可逆転位であり、その速度はアルキルラジカルがスズラジカルから水素を引き抜く速度の約100分の1であることがわかった。すなわち、neophyl転位を効果的に進行させて7-endo選択性を高めるためにはトリブチルスズ濃度を10^<-5>M以下に保つことが重要で、そのためにトリブチルスズをシリンジポンプで滴下する条件が必須であることが明らかとなった。また、neophyl転位の進行する要因は6-exoラジカルに比べて7-endoラジカルが熱力学的に安定である上に、7-endoラジカルのラジカル中心が弁千巻からはなれすぎているのでneophyl転位の中間体ラジカルを与えることができないことが考えられる。熱力学的な要因として、ラジカルの安定性が大きく寄与し、captodative効果が効果的に機能していることが明らかとなった。すなわちこれまであまり利用されていなかったcaptodative効果がneophyl転位を通じて合成的に利用できる新しい効果であることが明らかとなった。 2)αチオアクリルアミドの合成法を開発するために、Mannich反応やBaylis-Hillman反応を応用して検討を行い、その可能性と適用限界を調べた。
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