研究概要 |
以前我々が合成した立体保護により安定化された初めてのチオアルデヒドである2,4,6-トリ-t-ブチルチオベンズアルデヒド(Mes^*CHS ; Mes^*=2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)を活用し、新規硫黄高反応性化学種の研究を行った。チオアルデヒドMes^*CHSにN-クロロコハク酸イミド(NCS)またはN-ブロモコハク酸イミド(NBS)を作用させると、対応する塩化(または臭化)チオアロイルMes^*C(=S)X(X=Cl, Br)が生成した。この反応はNBSを用いた場合の方がNCSを用いた場合よりかなり速やかに進行した。塩化チオアロイルMes^*C(=S)Clの構造はX線結晶解析により決定した。これはハロゲン化チオアシルおよびチオアロイル化合物のX線結晶解析の最初の例である。Mes^*C(=S)Brについて種々の求核試剤との反応を行った。アルコール、フェノールとは対応するチオエステルが、チオール、チオフェノールとは対応するジチオエステルが良好な収率で得られた。アミンおよびアニリン誘導体からはチオアミドが生成した。異なる置換基をもつ第二級アミンを用いた場合には、生成したチオアミドにはN-C(=S)に関するs-cis, s-transの二種の異性体が存在した。これらの反応はいずれもNBSとの反応で生成したMes^*C(=S)Brを単離することなく、one pot反応として行うことができる。Mes^*C(=S)Cl(あるいはBr)の生成はチオアシリウムイオンMes^*-C≡S^+を経て進行していると考えられる。ここで見出した反応は我々の知るかぎりチオアシリウムイオンの生成の最初の例である。Mes^*C(=S)Brと炭素求核試剤(Grignard試剤、有機リチウム試剤、エノラート)との反応も行い、炭素求核試剤のチオフィリック反応に始まる機構で説明できる興味深い生成物を得た。
|