平面配位子に嵩高いフェニル基を有する各種の2-置換エチル並びに3-置換プロピルコバロキシム錯体を合成し、空気下に固相光反応を検討したところ固相特異的な異性化を伴った酸素挿入反応が起こることが分かった。この固相特異的な反応に及ぼす置換基の効果を検討したところ、β位並にγ位にPhenyl基、Phenoxy基などの嵩高くラジカルを安定化するような基が結合している錯体の場合は効率よく上記の異性化を伴った酸素挿入反応が進行し、また、ラジカルを安定化してもその置換基が小さいかCo-C結合を安定化するような性質をもつ(例えばCNやCOOMe)場合は異性化してα錯体は生成するが酸素挿入反応の効率は良くないこと、また、ラジカルを安定化する性質を持たない錯体の場合には酸素挿入反応は全く起こらないことが判明した。反応速度は基本的には反応基周りの空間の広さに支配されること、また、ピリジン系軸配位子の場合には、軸配位子の塩基性により制御でき、塩基性が小さいほど反応速度は大きいこと並びにその理由を結晶構造に基づいて明らかにした。ついで、各種の光学活性軸配位子を配位させて不斉な結晶格子を構築した、各種3-Phenylpropyl錯体を用いて同上の反応を検討し、それらの反応生成物をdimethylphenylphosphineで'元してアルコールに導きキラルカラムを用いたHPLCで不斉選択的反応の可否および不斉選択率を調べたところ、検討した全ての系で不斉選択的酸素挿入反応が起こることが判明した。特に、(S)-2-amino-3-methylbutanolを配位した錯体では高い不斉選択率74%eeで(R)-1-Phenylpropanolを生成することがわかった。ラジカル中間体を経由する反応にも拘わらず、高い不斉選択性がもたらされたことは、注目すべき事実であり、固相反応の優れた特徴ということができる。H_2及びNOの固相光反応でも興味ある結果が得られているが、紙面の都合で省略する。
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