研究概要 |
不安定な反応中間体の分子構造を知ることは新規反応の設計や新規物性の開拓に有効であり、単結晶X線構造解析を利用して不安定中間体の構造を直接観察することの意義は大きい。そのための手法として現在単結晶X線「その場観察」法が注目されている。単結晶X線「その場観察」とは目的の不安定中間体を発生する前駆体分子の単結晶を作製しその単結晶に光を照射することで不安定中間体を発生させ、単結晶X線構造解析を行うという手法である。本研究では金属化合物を自己組織化中空錯体内に取り込み、X線構造解析により配位不飽和中間体の直接観察を試みた。 ゲストとして光反応性を有する遷移金属錯体(CpMn(CO)_3,(2a);CpMeMn(CO)_3,(2b),(liquid at r.t.);CpCo(CO)_2,(3),(liquid at r.t.))の取り込みに成功し、X線構造解析により構造を明らかにした。2bの光反応を検討したところ、ゲスト単体では観測されなかった挙動が観測され、ホスト-ゲスト間での相互作用の存在が示唆された。そこで、極低温下(15〜100K)で2bの包接錯体の単結晶に、光照射を行い、赤外吸収分光法とX線構造解析により不安定中間体のその場観察を行った。光照射によりMn錯体から脱離したフリーのCOに相当する電子雲が出現していることが分かった。しかしながら、15Kという極低温にかかわらず光反応生成物に相当する電子雲が観測されず、光反応生成物の構造が初期の構造と重なっているために見えていないことを示唆している。COが脱離した後、擬C_<2v>対称にd軌道が再混成されるのかどうかが過去に議論されているが、X線構造解析の結果からは、そのような構造は見えていない。Hoffmanらは理論計算により光照射後の構造はpyramidalであると予測しているが、我々はそれを初めて実験で証明した。
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