研究概要 |
本年度は、窒素原子トランスファー反応を有すると期待される高原子価イリジウム-ニトリド錯体の合成を、種々のイリジウム(III)-アジド錯体の光反応により試みた。先に報告しているジチオカルバマト(R_2NCS_2)を共存配位子とするシクロペンタジエニルイリジウム(III)-アジド錯体,Cp^*Ir(R_2NCS_2)(N_3)のR_2NCS_2に代えて、2-ピリジンチオラト(pyS)を共存配位子とするアジド錯体,Cp^*Ir(pyS)(N_3)を合成した。この錯体は、アセトニトリル中での光照射により、アジド由来のN原子がIr-N(py)結合に挿入した二脚ピアノ椅子型錯体,Cp^*Ir(1-N-2-S-py)錯体を生成した。R_2NCS_2錯体の場合に生成するCp^*Ir{NSC(NR_2)S}錯体は熱的に不安定であり、N原子とS原子の反転を伴いCp^*Ir{SN=C(NR_2)S}に異性化するのに対し、今回得られた錯体,Cp^*Ir(1-N-2-S-py)は熱異性化に対して安定であり、この新規なイミド錯体の反応性を調べる上で有効であった。錯体は、配位不飽和ではあるが求核剤の付加反応に対して安定であり、一方、親電子剤MeIとの反応ではN-メチル化した[Cp^*Ir(1-NMe-2-S-py)]Iを生成した。Cp^*Ir(1-N-2-S-py)および[Cp^*Ir(1-NMe-2-S-py)]IはX線結晶構造解析により決定した。pySの他に2-キノリンチオラトを共存配位子とするイリジウム(III)錯体でも同様に反応が進行したことから、このイリジウム(III)-アジド錯体の光反応により、アジド配位子由来のN原子がIr-N(or S)結合間に挿入する反応の一般性を実証できた。さらに、1,8-ナフチリジン(napy)錯体においても、光反応により同様に二脚ピアノ椅子型錯体と考えられる新規化合物が生成することを分光学的に検出することができた。また、このnapy錯体については、光照射実験の対象となるアジド錯体の合成に至る過程において、napyが種々の配位様式を有する新規Cp^*Ir^<III>錯体を多数合成し、その結晶構造および溶存構造を決定することにも成功した。
|