研究概要 |
強いリン光性をもつ遷移金属錯体は有機ELなど次世代の表示デバイスの材料として最近注目されている。このリン光は遷移金属の非常に大きなスピン軌道結合が三重項状態と一重項状態とを混合し、三重項から基底一重項状態への速い輻射遷移を引き起こすために生じる。本研究では、遷移金属錯体について輻射確率などのリン光物性を理論予測することを目的として、比較的低い計算コストで高い計算精度をもつ時間依存密度汎関数理論(TDDFT)にスピン軌道相互作用を取り入れることで、100原子を超える遷移金属錯体についての励起状態の理論計算を可能にするプログラム(TDDFT-SOC)を開発した。このTDDFT-SOCを用いて代表的な強発光性錯体であるRu(II),Os(II),Ir(III),Rh(III)のトリスキレート錯体のリン光物性について計算したところ、ゼロ磁場分裂や三重項副準位の振動子強度などの実測値をかなり良く再現でき、これらのリン光物性の発現メカニズムを理論的に解明することができた。以上の成果は2003光化学討論会、配位化合物の光化学討論会で発表、またJ.Phys.Chem.に投稿中である。 有機ET発光材料開発における新規発光材料の分子設計にTDDFT-SOCが利用できるかどうかを検討するために、約30個の強発光性イリジウム錯体について、基底状態の構造について予想される300Kでの発光の振動子強度をTDDFT-SOCによって計算し実測値との相関を調べた。計算値は実測値よりも平均2倍程度小さかったが、両者の間にはほぼ良い相関が見られた。TDDFT-SOCは経験的なパラメータを使っていないことを考慮すると、これ以上の高い精度を期待するのは難しいが、新規発光体の開拓には十分役立つ情報を与えられる精度に達していると思われる。(2005日本化学会春期年会にて発表予定)。
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