研究概要 |
窒素系軸配位子を持つサドル型ポルフィリン鉄(III)錯体,[Fe(OETPP)L_2]ClO_4(1),のスピン状態は軸配位子の配位場の強さに応じて低スピン(S=1/2)(L=DMAP, Him)や中間スピン(S=3/2)(L=4-CNPy)を示す.また、ピリジンのように中間的な強さを示す配位子が結合するとポルフィリン鉄(III)錯体としては新規なS=3/2,1/2のスピンクロスオーバーを溶液中でも固相でも示す.このような現象がサドル型錯体に共通な性質か否かを解明するため、構造類似の[Fe(OMTPP)L_2]ClO_4(2)や[Fe(OMTArP)L_2]ClO_4(3,4),の磁気的性質を検討した. NMR, EPR, Mossbauer及びSQUID測定の結果、2のピリジン錯体は溶液中で温度低下に伴いS=3/2から1/2へのスピン転移を起こすが、固相では広い温度範囲で低スピンを保ち、1とは顕著な相違を示した.結晶中で1のFe-N_<axial>結合距離は298から80Kへの温度低下に伴い0.208Åと大きな短縮を示すのに対して、2ではわずか0.034Åであり、軸配位子周辺のcavityの大きさが二つの錯体間で大きく異なることが示唆された.実際、2の結晶は1に比べ密な充填を示した。そこで、分子間の密な充填が置換基により阻害されていると考えられる類似錯体(3,4)を合成し磁気特性を検討したところ、3では溶液中だけでなく固相でもスピンクロスオーバーを起こした.この結果は、適切な分子設計により結晶の磁気特性を制御することが可能であることを示している.4については現在検討中である.
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