本研究では基質分子と弱い錯形成をすることが出来る新しいキラルルテニウム(II)錯体を開発することにより、弱い錯形成中における立体選択的光還元反応と酸化反応を組み合わせた逆ラセミ化反応による完全立体認識反応系の開発を行った。 キラル配位子の数が異なる、つまり光学活性部位の数が異なり且つ相互作用部位である光学活性置換基のビピリジン配位子への連結基の数が異なるキラルルテニウム(II)錯体を合成した。連結基の電子吸引効果により吸収スペクトル及び発光スペクトルは長波長シフトが見られ、また、励起状態寿命は長寿命化しており、連結基を導入した効果が確かめられた。 キラルルテニウム(II)錯体の立体選択性をコバルト(III)錯体を基質として用いたレーザーフラッシュホトリシスにより検討した。キラルルテニウム(II)錯体からコバルト(III)錯体への正電子移動とその逆反応であるコバルト(II)錯体からルテニウム(III)錯体への逆電子移動を行い、それぞれの電子移動速度定数を測定した。正、逆の双方の電子移動反応において立体選択性が見られ、本研究により開発したキラルルテニウム(II)錯体が光逆ラセミ化に適用可能であることが示された。 更にルテニウム(II)錯体とコバルト(III)錯体間の電子移動反応および逆電子移動反応についてマーカス理論を適応した動力学的解析を行った。電子移動反応を支配している因子として考えられる、再配列エネルギーと電子的カップリング要素について、それぞれの電子移動反応における値を求め、両電子移動反応における支配因子について検討を行った。
|