ポリオキソメタレート錯体は古くより知られており、これまで数多くの錯体種が合成されている。しかし、主として研究されてきたのは正リン酸などの4配位酸素酸をヘテロイオンとするケギン型錯体[(XO_4)M_<12>O_<36>]^<n->やドーソン型錯体[(XO_4)_2M_<18>O_<54>]^<n->などの限られた錯体種であり、ポリオキソメタレート化学の新たな展開のためには新奇な構造性を有する錯体種の開発が待たれている。本研究では、複合配位子の創製と分離分析化学の新たな展開を目指している。 従来の水溶液系では生成する錯体が比較的電荷の高い錯体種に限定されるため、本研究では反応系を水-有機混合溶媒系に拡大し、広範囲に新規ポリオキソメタレート錯体を探求した。まず、水-アセトニトリル混合溶媒系からこれまで報告例のないαケギン構造をもつ12-タングスト硫酸錯体を見出し、合成単離することに成功した。次いで、タングステン酸反応試薬と正リン酸との直接反応により、これまでその存在が予言されながらいまだに未発見であったβケギン構造を持つタングストリン酸錯体を合成することに成功を収めている。また、水溶液系におけるα型錯体とβ型錯体との生成条件を^<31>P NMRにより明らかにした。さらに、水-アセトニトリル混合溶媒系において黄色タングストピロリン酸錯体が生成することを見出し、テトラアルキルアンモニウム塩として合成単離することができた。X線構造解析の結果、この錯体は、ピロリン酸ヘテロイオンの周囲を16個の八面体構造のタングステン酸イオンと1個のピラミッド型構造のタングステン酸イオンが骨格を形成するという新奇な構造性を有することが分かった。これは、従来のポリオキソメタレート錯体では見られないまったく新しい構造性であり、この新奇錯体の合成により、新たなポリオキソメタレート化学の発展が期待される。
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