研究概要 |
光学活性物質で修飾した固体触媒による立体区別反応は,医薬品・農薬の中間体・キラルシントンとして重要である.これらを得るため,従来天然物からの抽出,光学分割,均一系触媒を用いた反応が行われてきた.これらの方法は,天然に存在する立体配置のものしか得られない,触媒の調製が複雑高価であり,触媒の生成物からの分離が容易でない,などの欠点を持ち必ずしも社会的な要請に応えられるものではない.一方,光学活性物質で修飾した固体触媒による立体区別反応は上記欠点を克服でき,工業的規模での合成に適した方法である.本研究は酒石酸修飾ニッケル触媒を用いたアセト酢酸メチルの立体区別水素化において,触媒表面上の酒石酸,臭化物イオンの吸着量を正確に制御することにより完全な立体選択性を得る方法を探索することを目的とするものである. 本年度は,昨年に引き続き触媒表面上の酒石酸・臭化物イオンの定量を行った.特に触媒基材であるニッケルの調製条件,修飾法がエナンチオ面区別性およびその耐久性に大きな影響を与えることが昨年の研究で明らかとなったため,本年度は市販の酸化ニッケル,または水酸化ニッケルを500℃あるいは1100℃で焼成して得た酸化ニッケルを,水素気流下で還元して得たニッケル触媒を調製した.触媒の修飾法としては水溶液中または有機溶媒中で大気圧下あるいは9MPa水素圧下で修飾することを検討した.その結果,水溶液中での修飾では,1100℃で焼成して得た酸化ニッケルから酒石酸と臭化物イオンで修飾調製した触媒で最も高い立体選択性88%を得ることができた.この時の酒石酸の表面被覆率は25%,臭化物イオンの表面被覆率は13%であった.また500℃で焼成して得た酸化ニッケルから調製した触媒では,酒石酸の表面被覆率は17%,臭化物イオンの表面被覆率は16%であり,エナンチオ選択性は9%であった.一方,有機溶媒(THF)中で市販の酸化ニッケルを修飾した場合は,触媒の繰返し使用において高いエナンチオ選択性(70-85%)を30回程度与える修飾条件(100℃,9MPa水素圧下)では,酒石酸の表面被覆率は30%,臭化物イオンの表面被覆率は38%であった.これらことから,高いエナンチオ選択性を得るためには,酒石酸の被覆率のみではなく触媒表面状態が重要であり,また,高いエナンチオ選択性の耐久性を得るためには,特に臭化物イオンの被覆率がある程度高いことが必要であることが明らかとなった.
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