研究概要 |
報告者は光学活性ケトイミンを配位子とするコバルト(III)カチオン錯体が不斉ヘテロDiels-Alder反心や不斉カルボニル-エン反応において特徴的な光学活性ルイス酸触媒として機能することを示した.さらに,これまでニトロンの強いドナー性のため不斉1,3-双極子付加環化反応はオキサゾリジノンによるキレート配位を利用するアルケノイル誘導体の活性化に限定されてきたのに対し,α,β-不飽和アルデヒドを直接活性化を可能にしニトロンとの不斉1,3-双極子付加環化反応において,高い位置選択性,endo/exo選択性,エナンチオ選択性を同時に達成する有用な触媒であることも示した.本研究では,コバルト錯体が強いドナー性化合物の共存下でもルイス酸触媒能を発揮する特性を活用し,塩基存在下でニトロアルカンとアルデヒドの触媒的不斉付加反応において高い不斉収率で対応するニトロアルコールが得られることを明らかにした.同様に,ルイス酸触媒で活性化されたエポキシドをルイス塩基で開環し,二酸化炭素を捕捉,環状炭酸エステルが生成する反応では,ラセミ体エポキシドから速度論的光学分割を伴う反応が進行する結果,高い光学純度の環状炭酸エステルが得られるとともに,回収されるエポキシドも高い光学純度であることを明らかにし,二酸化炭素の化学的固定化法に新しい可能性を示した.ルイス酸触媒としてはほとんど利用されないコバルト錯体が,極めて特徴的なルイス酸触媒として作用することは理論的な検討の結果,つぎのような現象に由来すると考えられる.すなわち,通常錯体触媒が本来備えるルイス酸性は,電子供与性化合物の配位により劇的に失われるのに対し,ケトイミナト型コバルト錯体は平面四配位構造であり,軸配位子によりコバルトの項状態が3重項から1重項に変化するため局部的にはルイス酸性は向上し,全体としてルイス酸触媒の性能低下が抑制されたと考えられる.
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