研究概要 |
昨年度の本研究で合成したホスホナト架橋四核イリジウム錯体を利用した無機材料の開発に関しては、[{Ir(cod)}_4(^tBuPO_3)_2](cod=1,5-cyclooctadiene)の熱分解反応を検討した。分解に伴う質量変化、ならびに生成物の粉末X線分析の結果、予想されるリン酸イリジウムおよび酸化イリジウムの混合物が生成することが判明した。無機材料としての特性は明らかではないが、組成を制御した無機材料の合成にホスホナト架橋多核錯体が利用できる可能性を示すことができたと考える。 一方、シクロトリホスファトならびにシクロトリホスフィマトを配位子とするルテニウム錯体の合成を詳しく検討し、特にシクロトリホスファト錯体においては補助配位子としてdppe(dppe=1,2-bis(diphenylphosphino)ethane)あるいはビピリジンを用いることにより多様なルテニウム錯体が合成できることを見出した。すなわち、(PPN)[(C_6H_6)Ru(P_3O_9)](PPN=(PPh_3)_2N^+)をメタノール中、dppe存在下で光照射するとメタノール錯体(PPN)[(C_6H_6)Ru(P_3O_9)]が得られた。この錯体は窒素雰囲気下ではメタノールの解離によりN_2錯体へ誘導され、さらにエチレン、COと反応させるとN_2配位子がエチレン、COに置換された。また、メタノール錯体と3-ヘキシンを反応させたところ、エチル基の転位によりビニリデン錯体が生成した。内部アルキンからビニリデン錯体への異性化はほとんど例のない反応であり、特に単核錯体上で進行した報告はない。ハードなO-ドナーであるシクロホスファトの特性が現れたものと考えられ、きわめて興味深い成果である。
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