研究概要 |
π-スタック型構造に基づき、ビニルポリマーとしては非常に高い電荷の移動度を示すポリジベンゾフルベンの導電物性の解明を目的として、π-スタック系における電荷の非局在化について検討した。このためにジベンゾフルベンオリゴマーおよびポリマーを塩化アンチモンにより酸化してカチオンラジカル種を発生させ、その近赤外領域での吸収スペクトルを昨年度までに測定している。今年度は、無置換のジベンゾフルベンオリゴマーに加えて、側鎖にメトキシ基を有する、2,7-ジメトキシジベンゾフルベンを合成、重合し、ポリマーおよびオリゴマーを得た。無置換のジベンゾフルベンオリゴマーの酸化実験では、酸化カップリングによる副生成物の存在が疑われたが、フルオレン環の2,7-位をメトキシ基で保護することにより塩化アンチモンとの反応によりラジカルカチオン発生以外の副反応が起きないことがNMRおよびクロマトグラフィー分析から確認できた。酸化反応によりオリゴマーのラジカルカチオン種が発生したことは電子スピン共鳴スペクトルから明らかになった。ラジカルカチオン種を含む溶液の吸収スペクトルには、ラジカルカチオン種の存在を示す可視領域の650nm付近の吸収に加えて、1400nm付近の近赤外領域に幅広い吸収を示した。後者の吸収は、複数のフルオレン残基に電荷が非局在化したことに基づく電荷移動吸収体(CTバンド)と考えられる。スペクトルを理論的に理解するために、2量体モデルについて分子軌道計算を行った。以上に加えて、ジベンゾフルベンのフルオレン残基より大きな共役系を有する新しいモノマーの合成についても検討した。
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