得られた結果を要約する。 1.ベンゼン環で架橋した、フォトクロミックチオフェノファン-1-エン類を設計し、合成を行った。得られたチオフェノファン-1-エン類は、ベンゼン環の架橋位置によって光異性体(着色体)の熱安定性が異なることが見いだされた。これは、ほんのわずかに構造を変化させることで、様々な熱安定性を持つフォトクロミック化合物を開発できることが示された稀少な例である。 2.また、ベンゼン環の架橋位置によって、光閉環反応の量子収率が大きく異なることを見いだした。これは、反応点間の距離をコントロールすることで、溶液中で大きく量子収率が変化した初めての例となった。即ち、シクロファン化合物にすることで、光反応点間の距離が固定化されたため見いだされた現象であり、シクロファン特有であるといえる。 3.この研究で見いだされたチオフェノファン-1-エン類の1つは、高い量子収率で光反応を行い、両光異性体が高い熱安定性を有するなど、光メモリー材料として有望な化合物であることが見いだされた。 4.チオフェノファン-1-エン類の光学分割を種々の条件で検討したが、本研究期間中は成功しなかった。これは、光学分割に用いるHPLCカラムとチオフェノファン-1-エン類の相性が悪かったためではないかと考えている。今後、極性な置換基を導入することで、より、光学分割に適したチオフェノファン-1-エン類を開発し、立体特異的フォトクロミック反応を検討する予定である。
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