酵素分解を支配している因子を分子レベルで明らかにすることを目的として、水晶発振子マイクロバランス(QCM)と原子間力顕微鏡(AFM)を相補的に組み合わせて、バイオポリエステルの酵素分解反応を定量解析した。 ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート](P(3HB))溶融結晶化フィルムのRalstonia pickettii T1由来PHB分解酵素による酵素分解では、フィルム中に結晶とアモルファスが混在するため分解の進行とともに速度が変化することが明らかとなった。また、高い酵素濃度条件下で分解速度が低下するという特徴的な酵素濃度依存性が得られた。これは、吸着酵素分子間の立体障害によって触媒ドメインが基質表面に接近することが困難になるためであると考えられる。 一方、均質なポリ[L-乳酸](PLLA)アモルファスフィルムの場合には分解開始から終了まで一定の速度で分解された。また、ポリエステル表面に吸着した酵素の数が増えるほど分解速度が速くなった。Proteinase Kは、基質結合ドメインを有していないにもかかわらず、ポリエステルに不可逆的に吸着していた。この性質を利用することで吸着酵素分子の形状をAFMで直接観察することが可能となり、希薄濃度条件下で吸着酵素一分子を独立して観察することに成功した。酵素濃度を高くするとフィルム表面に吸着する酵素の数が増加し、高密度パッキングによって酵素が縦長に変形して吸着していることが明らかとなった。さらに、酵素分解によってフィルム表面に生成した穴を観察することに成功し、酵素分子の大きさとの比較から、分解酵素がPLLAを分解しながらフィルム表面を移動していることが明らかになった。PHB分解酵素とproteinase Kの分解挙動の違いは、基質結合ドメインの有無に起因すると考えられる。
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