生体内では、タンパク質はお互いに相互作用して存在している。本研究では、オリゴペプチドをタンパク質の部位モデルとして用い、ペプチドとタンパク質の相互作用を詳細に調べことにより、タンパク質の分子認識様式、他分子との相互作用による構造変化及びその機能への影響、タンパク質とペプチドとの反応性を解明することを目的としており、本年度は、以下の成果を得た。 1.酸化型シトクロムc(cyt c)とTyrTyrPheとを混合すると、cyt cは徐々に還元された。この反応では、吸収スペクトルの等吸収点が観測されたことより、cyt cには反応中間体が存在しないことが示唆された。しかし、418nmでの吸光度変化を時間に対してプロットしたところ、プロットは一成分あるいは二成分の指数関数に従わなかった。また、cyt c-TyrTyrPhe反応系に、さらにTyrTyrPheを添加したところ、反応速度は再び大きくなった。これらの結果から、未反応のTyrTyrPheを消費する副反応が、cyt cの還元反応を阻害していると推測された。 2.反応速度定数kobsの逆数は、ペプチド濃度の逆数に比例した。また、pHを高くするとkobsは大きくなったことより、ペプチド内のチロシンの脱プロトン化により反応が促進することが解った。イオン強度を高くすると反応速度が遅くなり、kobsの対数はイオン強度の二乗根に対して負の直線関係を示した。この傾きが比較的小さい値を示したことから、cyt cとTyrTyrPheは比較的弱い静電的相互作用で複合体を形成すると推測された。 3.cyt cとTyrTyrPheとの反応による反応生成物を分離精製し、マススペクトルを測定したところ、キノン類やチロシルラジカルによる反応生成物が検出された。以上の結果より、cyt cがチロシン含有ペプチドにより還元されると、チロシルラジカルが生成することが解った。
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