研究概要 |
南極海洋性細菌Flavobacterium frigidimaris KUC-1のアルコールデヒドロゲナーゼ(FlaADH,EC 1.1.1.1)は耐熱性酵素にもかかわらず,好冷性酵素の特徴である低温条件下での高い反応効率(k_<cat>/K_m)と低い活性化エネルギーをあわせ持つ。本研究では,FlaADHのX線結晶構造解析を行うとともに,得られた立体構造に基づき各種変異酵素を調製し,本酵素の特性を解明することを目的としている。まずFlaADHの変異酵素N265Vの温度依存性を解析した。アレニウスプロットから活性化エネルギーを算出したところ,親酵素では約46.8kJ/molであるのに対し,N265Vでは30℃を境に二相性を示し,5〜30℃では64.8kJ/mol,30〜60℃では32.5kJ/molであった。Geobacillus stearothermophilusの耐熱性アルコールデヒドロゲナーゼにおいてもこのように活性化エネルギーの二相性が確認されており,低温条件下では活性化エネルギーが高いという特徴が報告されている。またFlaADHのN265は他のアルコールデヒドロゲナーゼとは異なり,その側鎖の向きが大きく異なり主鎖のα-ヘリックスとは相互作用していない。したがってFlaADHではN265近傍のループ構造の柔軟性が大きく異なっていると考えられる。これらの結果から,N265はFlaADHの低温活性発現に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
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