研究概要 |
小分子の生物活性アミノ酸やペプチドは、生体機能維持に極めて重要な化合物である。本研究では有機合成化学を基盤に、アミノ酸・ペプチドと受容体タンパク質との相互作用解明のための新規な方法論を確立するための研究を平成16年度に引き続き実施した。以下に、平成17年度の成果について報告する。 (1)クモ毒による神経情報伝達阻害機構の解明-クモ毒ペプチド蛍光標識体の合成 クモ毒は、脳内における神経伝達機構解明の重要なツールとして期待される一方、心臓での神経伝達機構解明にも役立ち、新しい薬の開発にもつながるものと注目されている。 1)NPTX-594分子中の右側末端アミノ酸リジンのε-アミノ基に蛍光標識基として4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)を導入した誘導体の合成を行った。 2)上記誘導体に加え、平成16年度に合成したNPTX-594分子中の右側末端アミノ酸リジンのα-アミノ基にNBDを導入した誘導体およびNPTX-594分子中の左側末端の2,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(Dhpa)残基をNBDに置換した誘導体のコオロギに対する麻痺活性の測定を行った結果、いずれも活性を示さなかった。 3)新たにNPTX-594分子中の左側末端のDhpa残基を7-ヒドロキシクマリン-3カルボニル(HCC)基で置換した誘導体を合成したところ、天然物NPTX-594の1/10の活性を示すことがわかった。この結果、グルタミン酸受容体とクモ毒との相互作用解明を目指すために必要となる化合物の創製に成功し、本研究課題の一つを達成することができた。 (2)ムギネ酸による鉄イオンの植物体内取込み機構の解明 1)近年トウモロコシから単離されたFe(III)錯体輸送タンパク質(ZmYS1)の遺伝子を発現させた鉄吸収欠損酵母を用いて、ムギネ酸と同様の活性を有するデオキシムギネ酸の基本骨格をそなえた類縁体5種のFe(III)錯体の取り込み実験を行った。その結果、これらの鉄錯体が受容体タンパク質に認識されるためには、分子の構造および立体化学が鍵を握るという重要な知見を得ることができた。 2)デオキシムギネ酸のアゼチジン-2-カルボン酸残基をリジンに置換した類縁体のω-アミノ基をNBDやHCCで修飾した類縁体を合成した。しかし、これらはいずれも極端に水溶性が低下し、鉄錯体を作成することができず、それらの活性を測定することができなかった。したがって、水溶性の蛍光標識類縁体の合成が今後の課題として残された。
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