本研究の目的は、単一分子分光法を用いて燐光発光材料であるイリジウム錯体の光物性を研究する。研究は2つの段階に分けられる:1.フォトルミネセンスによるイリジウム錯体の光学特性を単一分子レベルで調べる。2.イリジウム錯体を用いてEL素子を作成し、イリジウム錯体の単一分子を電荷の再結合により励起し、その発光の特性が目的1で得られた特性とどのような関係があるかを調べる。本年度は第1の段階から初めた。最初は励起状態の寿命を測定するため走査型共焦点顕微鏡を作成した。以前使った単一分子分光用走査型共焦点顕微鏡を基にして励起光の光源をピコ秒レーザに変え、試料の発光信号に検出器としてアバランシェフォトダイオード(APD)を用い、検出器の信号をデータ処理用パソコンカードに入力し時間相関単一フォトン計数の方法による励起状態寿命を測れるようになった。現在、イリジウム錯体のバルク試料の用いて、装置のテストを行っているところである。 一方、これまでの実験でCCDによるIr(ppy)_3の単一分子レベルでの燐光の発光強度、発光継続時間を測定した結果、一般の蛍光色素に比べて幅広い発光強度分布を持つことが分かった。これらの原因としては錯体の構造の歪みや配位子の化学的劣化による吸収断面積の違いが生じると考えられる。この点を明確するために一個の配位子の異なる錯体Irfppy(ppy)_2を合成し、Irfppy(ppy)_2や構造の似た蛍光発光錯体Alq_3を用いて単一分子の発光観察を行った。結果として、アルデヒド基の付いた配位子のみから発光するIrfppy(ppy)_2も幅広い強度分布を示したからIr(ppy)_3もPMMA中で構造が歪む、その結果3つの配位子のエネルギー準位に違いが生まれ、安定な配位子から発光している可能性が考えられる。
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