試料の破損や破壊に生じる力学特性の情報を得ることができる従来の一軸延伸測定と試料の分子振動の倍音や結合音などの分子運動に直接関与する情報をナノ秒単位までで得ることが可能な近赤外分光測定を試料延伸中にその場で同時に測定できる装置を組み上げた。組み上げた装置を用いて、代表的な汎用性樹脂であり、構造用材料としての用途が期待されているイソタクチックポリプロピレンの一軸延伸過程中の降伏からネッキングに至る破損過程を、近赤外分光法を用いて解析した。測定した結果、近赤外光の吸光度は降伏点までの間で緩やかに減少し、降伏後、急激に増加することが分かった。そしてネッキング開始付近から再び減少に転じ、その後一定値に向かって漸近していくことが分かった。吸光度はそのバンドに応じた振動運動等を起こすことができる分子数に比例していることを考慮すると、まず降伏点までの吸光度の著しい低下は、球晶のアフィン変形によって球晶内部に貯蔵された内部応力により分子鎖の運動が抑制されたためと解釈できる。そして、降伏点後の吸光度の増加は、球晶内部の構造破壊によって分子が開放され、振動できる分子数が増加したことを示している。その後、再び吸光度が一定値に向かって低下しているのは、完全に球晶が破壊されてネックが発現した結果、軸方向への分子鎖の配向によって鎖の拘束が強くなったことを示唆している。
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