研究課題
透過型電子顕微鏡(TEM)による高分解能観察には、厚さ50nm以下の薄い試料が望まれる。昨年度に引き続き、本年度も高分解能観察に適したポリエステル薄膜の作製手法確立に主眼をおいた。特に本年度は、エレクトロスピニング装置を用いたナノファイバーの作製を試みた。試料作製法に関する成果を含めて、本年度の研究実績は以下の通りである。1)ポリブチレンテレフタレート(PBT)を静置場でメルトから結晶化させると、結晶化温度(Tc)が200℃より高温ではマルテーゼクロスと直交ニコルの方向とが一致したusualな球晶が、一方、Tcが200℃より低い場合にはマルテーゼクロスと直交ニコルの方向とが約45度ずれたunusualな球晶が形成されると知られている。薄膜中に生長した各々の球晶について、TEMによる電子回折やモルフォロジー観察から、ラメラの成長方向や光学的複屈折特性の原因などを考察し、第54回高分子学会年次大会(平成17年5月25-27日;横浜)で発表した(予稿番号2C09)。2)芳香族ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)ならびにPBTの各々について、メルト状態で「ずり歪み(shear rate:約4×10^6/秒)」をかけることによりTEM観察用の一軸配向薄膜を作製した。特に、PENやPBTでは明瞭な積層ラメラ構造が確認され、これらの試料ではシシカバブ構造が形成されていると結論し、第54回高分子学会年次大会(平成17年5月25-27日;横浜)で発表した(予稿番号2C10)。3)生分解性脂肪族ポリエステルであるポリジオキサノン(PPDX)の溶融紡糸繊維は、手術縫合糸として世界中で使用されている。その繊維構造を明らかにするために、X線回折やモルフォロジー観察などを行うとともに、エレクトロスピニング法のよるナノファイバーの作製を試み、結果を高分子学会第54回高分子討論会(平成17年9月20-22日;山形;予稿番号2E15)ならびに日本材料学会第15回高分子材料シンポジウム(平成17年12月12日;京都)で発表した。芳香族ポリエステル(例えば、PBT)のエレクトロスピニング法のよるナノファイバーの作製については、平成18年度繊維学会年次大会(平成18年6月12-14日;東京)で発表の予定である。
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