昨年度に、Si基板上にピンホールのない弗化物系トンネル超薄膜を形成するのに従来のCaF_2に変わって、本研究で新しく導入したCa_xMg_<1-x>F_2混晶が有効であることを示した。これを受けて、本年度は、まず、このCa_xMg_<1-x>F_2の成長最適条件を探索した。その結果、温度350℃でx=0.9付近の組成の場合に、平坦性、低電流リーク性の観点から最も良好なトンネル超薄膜をエピタキシャル成長できることを明らかにした。この組成は、混晶の格子定数がSiと格子整合する条件と推測される値にほぼ近いものである。また、この混晶系は、立方晶蛍石型のCaF_2と正方晶ルチル型のMgF_2の異なる結晶型を持つ材料同士の混晶となるが、Si(111)基板上に成長する場合、1.2nm程度の超薄膜では広範囲の組成(x=0.1〜0.9)で立方晶で成長することを電子線回折法で明らかにした。あわせて、Si(111)およびSi(100)も含めてこれらの面上にpure-MgF_2を成長する場合の結晶構造とエピタキシャル関係も観測し、これらの結果から、Ca_xMg_<1-x>F_2混晶においてはMgF_2の本来の正方晶ルチル構造が比較的容易に格子を歪ませ、立方晶蛍石構造に変形して安定な混晶のエピタキシャル成長を実現できるものと考察を加えた。 以上の検討から成長条件を最適化したCa_xMg_<1-x>F_2混晶を第一バリア層として、CaF_2/CdF_2/Ca_xMg_<1-x>F_2/Si(111)の超薄膜ヘテロ構造による共鳴トンネルダイオード(RTD)を製作し、従来のCaF_2/CdF_2/CaF_2/Si(111)構造のRTDと性能比較した。その結果、新しく実現したCaF_2/CdF_2/Ca_xMg_<1-x>F_2/Si(111)のRTDで、正常な微分負性抵抗特性を観測し、製作した素子の歩留まり、およびピーク電流/バレー電流比(PVR)において、新構造のほうが優れていることを実証した。 以上より、Ca_xMg_<1-x>F_2混晶が弗化物系共鳴トンネル素子のSi基板上のバリア層材料として適していること、さらにヘテロ系の格子整合度を高める条件下で素子特性の向上できることを実証した。
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