研究概要 |
今年度の研究成果は以下のようにまとめられる。 1、母材励起による可視および赤外発光分光測定 作成されたナノ微粒子を含むアナターゼ(nc-A-TiO_2)薄膜およびルチル(nc-R-TiO_2)薄膜の発光分光測定を行った。nc-A-TiO_2薄膜の発光測定から、波長400nm近傍にバンド間発光と約520nm(緑色発光)にピークを持つブロードな発光を観測した。この新たに出現した緑色発光遷移は、光触媒反応に起因したもので、酸素欠損によって生じるドナー準位からの発光遷移である。nc-A-TiO_2膜の発光減衰過程には2つの成分があり、バンド端発光成分の減衰時定数が約10ns、ドナー準位からの発光成分の減衰時定数が約100nsである。 nc-R-TiO_2薄膜では、バンド端発光に相当する1つの成分からなり、その減衰時定数が約10nsである。以上より、nc-TiO_2薄膜における光励起キャリアの再結合モデルを提示した。また、Erを添加したnc-A-TiO_2(nc-A-TiO2_:Er)薄膜から、可視域および近赤外域において室温でEr^<3+>イオンの内殻遷移に起因した発光が観測された。可視域では鋭い輝線の緑色発光スペクトルが観測された。これらはEr^<3+>イオンのシュタルク分裂に起因した鋭い発光線であり、約530nm、約560nm、約660nmの発光輝線はそれぞれ各励起準位から基底準位への発光遷移^2H_<11/2>→^4I_<15/2>、^4S_<3/2>→^4I_<15/2>、^4F_<9/2>→^4I_<15/2>に対応している。また近赤外域では、Er^<3+>イオンの^4I_<13/2>→^4I_<15/2>の発光遷移による1,534μmの鋭い発光輝線が観測された。 2、赤外発光の励起スペクトル測定 オプティカルパラメトリック発振器(OPO)を用いて、nc-A-TiO_2薄膜において観測された1.534μm赤外発光の可視領域での励起スペクトルを測定し、その励起・発光機構を検討した。観測波長を1,534μmと固定し、OPOの走査波長を600nmから440nmまで変化させたときに、547nm、522nm、489nmに鋭い吸収が観測された。これらは、Er^<3+>イオンの基底状態からそれぞれ各励起状態^4I_<15/22>→^4S_<3/2>、^4I_<15/22>→^2H_<11/2>、^4I_<15/22>→^4F_<7/2>への吸収遷移として理解される。
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