本年は研究の最終年度であることから、これまでの研究内容をまとめることと補足実験・解析を行うことを中心に進め、更に一部新しい研究に取り組んだ。論文としてまとめた研究成果は、昨年度に口頭発表した内容を発展させた、現象論的なAslamazov-Larkin(AL)理論におけるc軸方向揺らぎ伝導率(c軸σ')の波数cutoff効果と、Prをdopeした場合のYBCO多結晶での面内σ'解析に対して重要なpercolation現象についてである。 補足研究としては、まず実験として、昨年度の最適酸素量を有するLaBaCaCu_3O_<7-y>(LBCCO)系における面内σ'について詳しい実験および理論解析により、強い2次元伝導性が確認された。一方、交流帯磁率の揺らぎ現象の解析からは、3次元性が支配的であり伝導率の結果とは一致しない結果となった。更に、この物質に非磁性不純物の亜鉛(Zn)を添加した場合、Tc減少の度合いがYBCOより強いことを明らかにした。次に理論面では、c軸σ'についての微視的理論を用いたMaki-Thompson(MT)項とDensity-of-state(DOS)項におけるcutoff効果を計算した結果、これらの項におけるcutoff効果はAL項と異なる振舞いを示し、実験解結果を説明するために重要であることを指摘した。 新しい研究として、実験面ではBi_2Sr_2CaCu_2O_8(Bi2212)単結晶においてCaをYで置換しcarrier密度を制御した場合のσ'解析を行い、under-dopeに加えover-dope領域でも伝導の異方性が強まることを見いだした。理論面では2次元と3次元をカバーする超伝導厚膜におけるσ'のcutoff効果を考慮した式を導き、酸素量を制御したYBCOの実験結果をよく説明出来ることを示した。 以上の研究結果を含め、これまで得られた揺らぎ伝導率解析結果を総合して、系の特性評価法としての揺らぎ伝導率spectroscopyの有効性について論じている。
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