本研究は、生体分子や固液界面の溶液環境での高分解能観察可能な原子間力顕微鏡を実現することを目的としている。ここでは、溶液中でQ値が低下し周波数変調方式の検出が困難となる従来のカンチレバー式センサーに代わり、長辺振動型水晶振動子を溶液中で自励発振・自己検出可能なセンサーとして用いて、新しい方式のAFMを開発することを試みた。市販されている共振周波数457kHzの水晶振動子をベースとして用いて、センサーを開発しその特性を評価した。この水晶部分をAFMセンサー用の電極にマウントし、電界研磨した直径50ミクロンのAuの探針を取り付けた状態で大気中で計測したQ値は約8000であった。これを液中に導入するにあたり、粘性によるダンピングを最小限にしかつ極性溶媒中での電極の短絡を防止するため、ハウジング内に振動子部分を収納し、探針だけを液中に液中に露出させる方式を採り、結果としてQ値を約6000の値に保つことができた。さらに、水晶の弾性定数を低減させるために、特注サイズの水晶振動子を購入し、これを用いてセンサーを製作した。この振動子においては、付加した探針の質量による共振特性の低下や水中に露出する探針が受ける粘性力を可能な限り低減するため、直径10ミクロンのタングステン細線を探針とし、収束イオンビーム加工を施して、水中Q値4000程度の特性を達成した。100kHzの復調帯域を仮定した場合、液体分子のブラウン運動により決まる感度は、現状では約1nN程度と計算される。しかし実際には水晶振動子の金属電極部の振動モードの等価的弾性が水晶自体の弾性よりはるかに低いと考えられるので、より感度は高いと期待される。これらの成果については、2回の国内学会において発表している。
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