本研究は、生体分子や固液界面の溶液環境での高分解能観察可能な原子間力顕微鏡(AFM)を実現することを目的としている。まず、溶液中でQ値が低下し周波数変調方式の検出が困難となる従来のカンチレバーセンサーに代わり、長辺振動型水晶振動子を溶液中で自励発振・自己検出可能なセンサーとして用いて、新しい方式のAFMを開発することを試みた。水晶振動子に対する粘性によるダンピングを減らし溶液中での電極の短絡を防止するため、ハウジング内に振動子部分を収納し、探針だけを液中に露出させる方式を採った。このセンサーのQ値は、大気中で6000程度であったのに対し、水中に導入するとおよそ4000程度となり、大気中で値の80パーセント程度の感度を達成可能なことがわかった。 また、典型的な動作状態におけるセンサーの振動振幅は0.1nmのオーダーと、非常に小さいことが判明した。これは、従来式のカンチレバーに比べて、1-2桁小さい値であり、新方式センサーの利点であった。また、通常のカンチレバーセンサーによる高感度・高速化についても検討した結果、振動振幅の減少量を検出・制御するAM方式よりも、振動位相の変化量を検出・制御するPM方式の方が、より高感度な計測が可能であり、また、広帯域計測も実現しやすいことを理論的・実験的に確認した。さらに、液中環境での粘性抵抗力を電気的な帰還回路によって相殺するQ値制御法と呼ばれる手法との複合を試みたところ、実効Q値の増大に伴って、力に対する感度が向上することを確認した。また、走査機構の高速化についても研究を実施した。動作速度を制約する圧電素子の機械的な共振を抑圧するため、素子の変位速度に比例して圧電素子の極板に発生する電流を用いて負帰還をかける方法を提案した。さらに、この信号を積分して変位量として帰還をかけることにより、低域におけるヒシテリシスも抑制することができた。
|