半導体レーザ(LD)励起マイクロチップ固体レーザを舞台にして、多自由度非線形システム(複雑系)に共通に発現する普遍ダイナミクスの抽出、非線形レーザ科学の創出ならびにLD励起薄片レーザの特長を利用した応用分野の開拓を目指して研究を進め、16年度は以下の成果が得られた。 1.複雑系のダイナミクス (1)多重∧型遷移レーザにおける動的不安定性を初めて実験的に見出し、発振モードのグループ化とグループ間での情報ネットワークの形成を我々が開発した情報還流解析法により明らかにした。これらの現象は理論的に良好に再現された。大域的に結合した非線形振動子における自己秩序化の形態として意義が成果である。 (2)周波数シフト光帰還多モードレーザにおいて、レーザに普遍的に存在する2つの運動形態(ソフトおよびハードモード)をランダムにスイッチングする、明確な「カオス的遍歴」を見出し、ポアンカレ写像、時間-周波数連結解析、情報還流解析により物理的素過程を解明し、シュミレーションにより良好に再現した。 2.非線形レーザ科学 LDによりそれぞれ対称および非対称励起された2個の直交偏光発振薄片固体レーザの対面結合により、「バースト同期現象」を発見した。非対称励起された「量子ビリアードレーザ」に形成される時間的に変動する非直交横モード間のビート波が、交差飽和を介して2つのレーザに変調を誘起すること、変動するビート周波数が緩和振動周波数をよぎる際に2つのレーザで同時にカオス的バーストが発生すること、などを周波数連結解析により解明した。パラメータ掃引による結合非線形振動子系の応答として興味深い。 3.応用研究 (1)「自己混合レーザ計測」にキャリア周波数多重光帰還を導入し、ピエゾ振動子の実時間多点振動計測を実現し、静電容量変位計により振動振幅の高精度計測を実証した。計測限界は10nmが得られた。 (2)自己混合レーザ計測法を微粒子のブラウン運動計測へ応用し、100-500nmのポリスチレンラテックス群の中中での平均運動の実時間計測に成功し、アインシュタイン則からのずれとその法則性を見出した。また、レーザ変調出力のパワースペクトルのフィッティングより迅速な平均粒径計測を達成した。
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