初年度となる本年は、当初、高調波加速空洞のプロトタイプの試作を行う予定で設計を進めていた。しかしこれと平行して行っていたSTBリングにおけるビーム不安定性の研究において、測定の結果、そのビームの振る舞いが当初の予想されていなかった原因に起因する可能性が高いことが明らかになった。通常、ビーム不安定性の主な原因と考えられているのは、主高周波加速空洞の高次モードである。しかし観測されたビームの周波数信号は、これとは異なる原因を示唆していた。高調波加速空洞の導入はビーム不安定性の抑制がその目的の一つであり、そのためには、現状のビーム不安定性の把握が本研究を遂行する上で極めて重要である。そこで、この不安定性の原因究明ため、急遽、放射光を用いたビームモニターの整備を進めることになった。このビームモニターは、電子ビームが放射したシンクロトロン光を用いて、電子ビームの振動や特性を精度良く測定するものである。現在、光学系の構築をほぼ終了し、電磁石電源の故障のため中断されていた加速器の運転が再開され次第、測定を開始する手筈となっている。 なおプロトタイプの試作については慎重に検討を進めれば、省略が可能であると判断した。数十ミリアンペアという比較的に低いビーム電流でも十分な空洞電圧を誘起するためには、高いシャントインピーダンスが要求されるが、そのための形状があまり複雑になると加工が容易でなくなるので、総合的に判断する必要がある。現在、2次元の電磁場計算による空洞の内面形状にもとづいて3次元電磁場計算による設計を進めている。
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