研究課題
今年度は、複数原子イオン入射における2次電子のカイネティック放出について研究した。最近の実験データによると、1原子あたり0.24MeVのエネルギーをもつ炭素クラスターイオンC_n^+(n=1-8)を炭素(HOPG)に入射し、後方表面から放出された2次電子のエネルギー分布(0〜50eV程度)およびその積分収率が測定された。入射粒子1個あたりに規格化した放出2次電子のエネルギー分布には、いわゆる「負のクラスター効果」が観測された。著者は、この現象に入射クラスターの荷電状態および粒子相関がどの程度関わっているかを調べるために、(1)入射クラスターによる固体内部での電子励起、(2)励起された電子の出口表面までの伝播、(3)表面ポテンシャルの透過、という「3段階モデル」で解析を試みた。入射粒子の効果は(1)のプロセスに取り込まれる。ただし、クラスターの荷電状態は入射時のままであり、入射粒子は非点電荷であるとして扱った。(2)のプロセスでは、励起電子の非弾性平均自由行程と阻止能が必要になる。ここでは、標的電子系を自由電子ガスと見做し、その動的誘電応答関数を用いることによって定式化した。(3)のプロセスでは、量子力学的透過確率を採用した。以上の理論モデルによる解析の結果、以下のことが判った。まず、1原子あたりの2次電子のエネルギースペクトルの収率は、0-10eVの低エネルギー領域では、粒子数nの増加とともに減少するが、20eV以上ではほとんど差が無いように見えること、また、C+入射に対する相対収率は、電子エネルギーの増加とともに増加してやがて1付近に落ち着くこと、が判明した。しかしながら、n=4,8のクラスターに対しては、実験データが示唆するほどの収率低下には至らなかった。これを解決するためには、われわれが取り入れなかった別の影響も含めた今後の検討が必要であると思われる。
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