多自由度のラチェットモデルを計算機シミュレーション及び理論によって解析しその結果をまとめた。具体的には(1)2次元の運動自由度を持ったブラウニアンモーターがばねによって結合した系を取り上げ、多数のモーターよりなる大規模な系に対して計算機シミュレーションを行なった。この際運動の方向が2次元的に許されるようになっても、系の折れ曲がりを防ぐ力が働くとした場合、結合したラチェトモデルは、それを構成するモーターがある程度多い場合には、少々その進行方向が揺れるけれども全体として系自身が固有に持つ動きやすい方向へ、ほぼ1直線の形を維持したまま、進んでいくことがわかった。さらに詳しく、分子モーターの運動の方向の変化を調べると、結合するモーターが少ない系はその進行方向が煩雑に変化するけれども、十分に多くのモーターを結合させるとほぼ一定の方向に進むようになることをがわかった。このことは分子モーターの生物学的な(in vitro)実験でよく使われるin vitro motility assay(in vitro滑り運動測定系)における分子モーターの運動方向に関する実験結果と一致し、定性的に実験結果を説明できた。また、ラチェットポテンシャルの空間的周期を変化させることで、滑り運動測定系におけるミオシン分子の密度の変化に対応させ、分子モーターの速度がミオシンの密度が小さいうちは密度が増すと共に速度が増加し、ある程度密度が大きくなると速度が飽和するという実験結果を、このモデルで定性的に説明できた。これらの成果は、7月にイタリア、エリーチェで開かれた国際会議100years of Brownian motion、9月に京都において開かれた日本物理学会2005年度秋の分科会において発表した。さらに、Physcical Review E 71巻6号に"Elastically coupled two-dimensional Brownian motors"として論文が出版された。
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