研究概要 |
供試材であるTi-6Al-4V(α+β型)チタン合金に,比較的多量の残留β相を維持しつつα'マルテンサイト相が生成され,なおかつ組織の粗大化が生じない1203K,60sの条件で短時間溶体化処理を施した.その後,残留β相の量を調整すると同時に微細α相を析出するため,753K,853Kおよび953K,40sの短時間時効処理を行った.これらの熱処理材に対し,未処理材と併せて組織観察,超マイクロビッカース硬さ測定,光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いた組織観察を行うと共に,X線回折および電子線回折による相の同定を行った.さらに,変位速度1mm/minの条件で引張試験を行うとともに破面観察を行った. その結果,短時間溶体化処理を行ったTi-6Al-4V合金の引張強さは大幅に改善し,同時に延性も著しく上昇することが明らかとなったが,引張強さに対する降伏応力の比は未処理材と比較して低い水準にあった.これは比較的低応力水準で残留β相の応力誘起変態が開始したためと考えられる.短時間溶体化処理後に時効処理を施すと,降伏応力および引張り強さはさらに上昇し,また断面収縮率は未処理材の場合以上に維持された.上記の強度向上は,基本的に残留β相内に微細α相が析出したことによると考えられる.本年度調べた熱処理条件の内,1203K,60sの短時間溶体化処理および853K,40sでの時効処理からなる短時間2段階熱処理により,延性を損なうことなくTi-6Al-4V合金の高強度化を達成できることが明らかとなった.この条件で短時間熱処理を施した場合,降伏応力および引張り強さは未処理材と比較して25%上昇し,同時に延性も9%改善した.なお,本年度得られた結果については,現在,Materials Transactionに投稿中である.
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