研究概要 |
最終年度として,これまでで完成したマルチスケール結晶塑性に対する場の理論を応用し,具体的課題に取り組んだ、対象としては(a)高強度鋼板の高精度スプリングバック挙動予測および(c)Cu添加鋼の疲労特性制御を取り上げた.ここでは狭義の結晶塑性理論に基づき,結晶格子のすべりを素過程と考え,1すべり系におけるせん断応力-せん断ひずみ速度の関係を基本とした.同時に,複数の相異なる階層レベルにおける不均質場の数理的表現とそれらの間の相互作用を記述し得る相互作用場の概念を確立し,いくつかの実例を示した.解析モデルとして正六角形状の結晶粒から成る多結晶板材モデルを計算機内で構築し,粒内不均質揚の発展および多結晶粒の集団協同効果と,繰り返し負荷条件下での除荷・再負荷に伴う不可逆挙動との関係を系統的に調べ,とくにスプリングバック特性に大きな影響を及ぼすバウシンガ効果の発現機構について検討を加えた.その結果,同効果は,大きくは(A)転位・転位下部組織,(B)結晶粒内および(C)結晶粒集合体の各階層における不均質変形場の発展に伴う背応力場の形成とそれらの間の相互作用が同機構を理解し,かつ適切にモデル化する上で本質的に重要であることを明らかにした.また,疲労問題に関しては,)Cu添加鋼において,変形中に形成される転位下部組織形態を左右するFe中のCu原子の影響について,らせん転位コア構造の観点から第一原理的に調べた.その結果,純Feの場合には非拡張型であったコア構造が,Cu添加により拡張型へと顕著な構造変化が生じること,さらに後者ではせん断応力作用下において運動前に準安定配置を経ることなど,本質的に新たな知見を複数得た.
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