研究概要 |
軽量で振動吸収性のあるマグネシウム合金は再資源化が容易なことから環境負荷提言の要求に応える材料として注目されているが,製品製造過程における安全性への懸念から利用量の伸びは芳しくない.本年度の研究では研究代表者が開発した油膜付き水滴加工液を使用し,マグネシウム合金を精密切削加工したときの水素発生量の測定,水素発生を抑制しつつ切り屑のリサイクル性を維持する油剤の開発,ドリル加工,タップ加工での加工特性を調べた. まず,切削加工域の雰囲気を窒素濃度95%以上とすることで,不測の事態で切り屑が高温となった場合も爆発的な燃焼はしないことが明らかとなった.また,油膜付き水滴加工液の水滴に付着させる油剤は従来から植物油系のエステルを用いていたが,この物では水素発生抑制効果が低いことから,植物油(トリエステル)の分子構造の一部をマレイン化処理して反応性を持たせ,マグネシウム合金切り屑の表面を安定化することを試みた.マレイン化の程度が強い場合は,切り屑だけでなく製品までも変色することがわかり,植物油が持つ3つの脂肪酸のうち1つをエステル化することで,変色が無く,切り屑のリサイクルも可能で水素発生も抑止できる油剤が開発できた(特許申請中). 開発した油剤を使用し,ドリル加工,タップ加工に適用した所,従来から用いられているマグネシウム合金用のエマルション加工液と同等の加工力で加工が可能なことが確かめられた.ちなみに,従来の加工液では使用量が桁違いに多量であるだけでなく,切り屑は黒く変色しリサイクルは不可能となっていた. 以上より,新たに開発した油剤の油膜付き水滴加工液により,環境負荷が小さく安全でリサイクル性のよいマグネシウム合金切削加工の可能性が見出せた.
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