コバルト含有タングステンカーバイド(以下、WC-Co)の高精度形状加工のための基礎的研究として、ケモメカニカル効果を利用した加工模擬実験と表面状態計測を行い、その有効性を調べた。ケモメカニカル効果を発現させるためには表面の汚染がない状態で特定の加工液を表面吸着させる必要があるため、まず、表面を浄化する技術としてレーザー照射による方法を調べた。その結果、この方法(レーザークリーニング法)により、表面に吸着している油などを除去しつつ内部に分散しているコバルトが表面近傍に僅かに局在化し、硬さが低下することを明らかにした。 この結果を受け、特定の加工液中でレーザークリーニングを行う方法を提案し、スクラッチ試験により加工性の評価を行うとともに、表面の顕微鏡観察や赤外吸収分光法による表面状態の評価を行った。加工液には切削加工に用いられるアルコール系液状高分子としてウンデカノール、同じくエステル系としてパルミチン酸ブチルおよびノナン酸メチル、また、比較のため市販の加工液(B905)を用いた。 スクラッチ試験では、ロックウエル圧子を用いるが潤滑の効果が大きく加工状態の比較が困難であった。このため、ビッカース圧子を用いて模擬加工試験を行った。液中レーザークリーニング法による表面浄化であるが、ウンデカノール及びパルミチン酸ブチルでは、液中レーザークリーニング法により大幅に濡れ性が向上することがわかった。これは、赤外吸収分光法による表面状態測定の結果から、表面への直接吸着や配向吸着による効果であると推定された。ビッカース圧子を用いて模擬加工試験の結果、特にパルミチン酸ブチルでは、処理をしなかった場合と比べ加工痕上にクラックなどの発生が少なく、良好な加工が可能であることが示唆された。 今後は、ビッカース圧子の方向や種類を替え、加工性の比較など行い実加工への展開を検討する。
|