本年度は、実用材料の凝着力を実用環境下(大気中、無潤滑および潤滑下)で計測できる試験システムを開発した。この試験システムは、マイクロビッカース硬さ試験機を利用したものであり、そこに凝着力計測部を組み込むことにより簡便かつ正確に凝着力を検出できるようにした。計測可能な最小凝着力は、10μNである。本試験システムを用い、凝着力とダイヤモンド製ピラミッド圧子角度の関係、および凝着力と押込み荷重の関係を調べた。試験材料としては、代表的工業材料である鋼(炭素鋼、ステンレス鋼、工具鋼、軸受鋼)を用い、大気中無潤滑および大気中潤滑(潤滑油:10W-30相当のベースオイルに油性剤、極圧剤を添加した数種類の油)中で凝着測定を実施した。その結果、1)凝着力は圧子の対面角度αが小さくなるに従って大きくなること、逆にそれが鈍角となり通常の硬さ試験に用いられる136度付近となれば、凝着力は0となる、2)凝着力は負荷荷重にほぼ比例する、3)これらの傾向は、潤滑油の有無種類によらない、ことが明らかとなった。また、凝着力の大きさ自体は鋼種により若干の影響を受けるものの、潤滑油種類の影響はほとんどないことが分かった。 これらの実験結果を検討するために、圧痕部の観察とFEMによる数値解析を行った。凝着が生じる鋭角圧子による圧痕とそれが生じない鈍角圧子による圧痕の主な相違は、前者では圧痕の側面部に激しい塑性流動が見られるのに対し、後者では圧痕の底面部に比較的激しい塑性流動が見られることである。またFEM解析より、荷重の除荷過程における弾性回復量は、鋭角圧子による圧痕では鈍角圧子によるそれに比べはるかに小さいことがわかった。 以上の結果から、鋭角圧子による実用材料の凝着現象は、潤滑油の有無に関わらず圧子の押込みにより新生面が露出しそれが圧子に凝着すること、加えて除荷過程において凝着部を破断させるほどの弾性回復が生じないことにより発生することが明らかとなった。
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