近年ネットワーク社会の発展により、デジタルコンテンツの著作権管理が重視されており、「電子透かし」と呼ばれる情報をコンテンツに埋め込み、著作権を保護するという研究が盛んに行われている。従来は、静止画、動画、音声などのマルチメディアを中心としたコンテンツが対象であったが、製造業で用いられるCAD/CAMの3次元モデルに対しても電子透かし技術の開発ニーズが増している。しかし、意匠的に美しい形状を有する家電製品や自動車の場合、実物を3次元距離センサでスキャンして、3次元モデルのコピーをつくることも可能であり、この場合電子透かしは役に立たない。そこで、3次元モデル固有の情報である「電子指紋」を用いる方法が提案されている。 曲面上には曲面固有の主曲率方向をつないだ曲率線を描くことができ、最大主曲率と、最小主曲率の方向が直交することにより、曲率線は直交網を形成する。しかし臍点(せいてん・umblics)と呼ばれる点では最大・最小主曲率が等しくなるためこの直行性が失われ、3種類の曲率線パターンが現れる。滑らかな曲面上に抽出される臍点は、曲面への外乱に対して高い安定性を持つという特徴がある。 3次元モデルの表現方法には非一様有理B-Spline(NURBS)とポリゴンメッシュの2通りがあり、前者は区間有理多項式であるため、微分幾何学を用いることによって電子指紋が得られるが、後者は平面から構成される3次元モデルであるので古典的な微分幾何学を適用できない。本研究ではポリゴンメッシュから滑らかな曲面を得るための手法として、細分割曲面と呼ばれる曲面生成手法を用いて法線や曲率等を求める方法を提案した。対象となるポリゴンメッシュに対して細分割曲面手法を適用することによって極限曲面が得られ、この極限紬面上で電子指紋の抽出を行なった。 オリジナルのモデルAと不正コピーの疑いのあるモデルBとの類似度を判断するために両モデルの重心、向き、スケールを一致させるマッチングを行い、両モデル問の距離を比較するWeak Teat、主曲率方向を比較するIntermediate Test、電子指紋を比較するStrong Testを実施した。 本研究では以上のように電子指紋の抽出によってポリゴンメッシュモデルの類似度を統計的に評価する手法の開発を行ない、その有効性を示した。
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