研究概要 |
球面軸受である股関節の骨頭とカップ間の接触圧力を,転がり軸受の荷重分布を求める手法に類似した方法を適用することで計算した.導出した軸受方程式による解析結果と有限要素法による数値結果を比較して,軸受方程式でも実用的精度で計算できることを確認した.提案した方法は球面軸受だけでなくジャーナル軸受にも応用可能であることも示した. CoCrMo平板対超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)ピンの往復動滑り摩擦実験から,ピンの滑り方向入口側の接触圧力は低く,出口側の接触圧力を高くすれば摩擦係数は小さく,逆に滑り方向入口側の接触圧力を高く,出口側の接触圧力を低くすれば摩擦係数の大きくなることを実験的に確認した.このことを人工関節の設計に利用して,接触圧力分布を現状の対称形から非対称にすることで荷重負荷過程の摩擦係数を小さくすれば,人工関節の摩耗寿命を延ばせる可能性のあることを示唆した.サファイアガラス平板に対しUHMWPE円板を揺動させて,滑り摩擦による接触域内の温度上昇値を赤外線放射温度計により直接測定して最大で10℃程度温度上昇することを確認した.実験結果を説明するための数学モデルも考察した.球面軸受の摩擦による接触面温度を論文からの実験値と,Kennedyによる簡略計算法で求めた結果とを比較した.摩擦エネルギーのほとんどが骨頭側に流入することを示し,簡略計算の精度を左右するのは,ステムへの熱流出をモデル化するために骨頭内に仮想的に設けた温度一定の空洞の大きさであり,CoCrMo骨頭では,空洞の大きさは骨頭径の約半分程度にすれば接触面温度が精度良く得られることを示した.
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