研究概要 |
本研究で計画し実施してきた実験計測や解析などにより,以下のことが明らかになった. (1)エンジン油の粘度等級をSAE10W-30からSAE5W-30へ低粘度化し,添加剤配合をCD級からDH級へと低灰分化することにより,ディーゼル機関の全摩擦損失を低減できる. (2)転がり接触カム・ローラタペット動弁機構では,カム・ローブ部がショットピーニング仕上げ加工され研削仕上げの場合より表面が粗いカム軸であっても,カム・ローラ間の接触荷重,摩擦力や摩擦係数の変化は少なく,動弁系の摩擦損失に及ぼす影響は小さい.すなわち,表面粗さ1μm〜2μmを許容できる.カム軸回転の高速域で,摩擦係数が面粗さの小さい場合より小さくなり,カム・ローラ間のスキッディングは小さくなる.一方,粘度の低いSAE5W-20油を適用すると,カム・ローラ接触部以外の動弁系しゅう動部の摩擦損失は小さくなるが,ローラ・ピン間の摩擦が増大し,カム・ローラ間のスキッティングは大きくなり,摩擦係数が大きくなる. (3)カム・ローラの転がり接触について,粗い接触面間での油膜の連続流れを前提とする弾性流体潤滑と固体接触に伴う荷重分担を考慮する混合潤滑を連立させる解析により,油膜形成下の表面粗さと固体接触部の荷重分担率の関係を調べた.粗いカム面による摩擦低下は,表面粗さが1μm以上では固体接触のみで荷重を支える状態になるなど,面粗さが大きいほど固体接触が増し,カム・ローラ間のスキッディングが起こりにくくなるためである. (4)エンジン使用油にFM剤を補充添加するとカム・フォロワ摩擦摩耗は減少する.またカーボンブラックを1%混合しただけでも摩擦は大幅に低下する.しかし5%混合すると,FM剤添加量を多くしても,時間が経ち酸化劣化が進むと,摩擦摩耗は増大し効果が消える. (5)カム・フォロワ接触面をモデル可視化し,すす混入オイルの流入出状態を観察した.画像解析法とレーザー光散乱法のオイル中すす粒径分布測定値は一致する.LIF法の油膜厚さとレーザー蛍光強度は,蛍光剤の量やオイルの性状に影響され直線的な比例関係にならない.
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