【実験装置・方法】細胞試料にはヒト臍帯動脈内皮細胞とヒト単球細胞を用いる。当初計画していた分岐管のキャストモデルの製作が困難なため研究方針を変更し、分岐部で生じる血流の再付着流、剥離流を再現できるバックステップ型の平行平板流路を代わりに製作した。流路のテストセクション部はUV透過型石英板を用い、その表面にヒト臍帯動脈由来の血管内皮細胞(IFO-50271:細胞バンク)を培養させる。培地には自家製の基礎培地に牛胎児血清、抗生物質とEGCS(内皮細胞成長因子)、EGTA、グルタミンを加えたものを用いた。流路系は長時間に渡り生体試料と生理的緩衝溶液を回流させるので、これらが汚染されないように閉流路系で行った。 循環流路にはCO2ガス供給ユニットを設け、配管には滅菌したシリコンチューブを用いている。流動変化を流路につないだ流量計を用いてモニターし、流路系全体を温度コントロールユニットで雰囲気温度37℃に保つ。現在の実験の進捗状況は、緩衝溶液を所要時間還流後、蛍光顕微鏡とCCDカメラを用いて、流体力学的せん断応力に対する内皮細胞の生理活性を測定中である。実験に必要な測定系が整備されたため、最終年度では流れと物質輸送、細胞生理活性との関連について詳細を明らかにしてゆく予定である。 【コンピューターシミュレーション】共同研究者である、Tarbell博士のサポートのもと、米国NCSAのスーパーパラレルコンピューターを用いて、頸動脈分岐部をモデル化した弾性分岐管における物質輸送の数値シミュレーションを行っている。解析結果により、血管の弾性が血管内壁における物質輸送に多大な影響を及ぼすことが判明した。特に動脈硬化の好発部位である分岐部の再循環・付着流の生じる領域では著しい低酸素状態が生じることが明らかになった。数値解析の研究成果は専門学術雑誌を含め、国内の幾つかの学会にて公表済みである。
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