粘性液滴に含まれる空気が種となって生成するキャビテーションが、多泡性から単泡性に変化していく過程を実験的に調べることが本研究の目的である。水より重い液体の中に水より軽い気体が分散している系なので、音響放射圧の理論でいえば本質的に不安定な系である。実際、N.Harbaらによる顕微鏡下での観察は、確率数十分の一でしか成功していない。 今回、まず超音波を照射しない条件下で密度dのKI水溶液の中にグリセリン液滴を滴下してその挙動を調べた。当然グリセリンの密度d_Gがdより大きければ底に沈むと予想されたが、d>d_G-0.01の範囲でそのまま浮き、d>d_G-0.02では一旦底に沈んで再び上昇する挙動が観察された。これはグリセリン/水の界面が静的なものではなく(であればStokesの公式が適用できる)、動的、すなわち拡散および対流によって弱い上向きの力が加わっているものと理解される。なお、液滴を水面上に浮かべると表面張力のために液滴が浮いて広がるので、上方約1cmのところから水面に向かって落下させた。 次に密度d=d_G-0.01の溶液に超音波を加え、ミクロシリンジから気泡ごとグリセリン液滴を滴下して落下の振る舞いを調べた。超音波条件は気泡が単独であればトラップできる条件であり、第二高調波で共振している。再現性の高い実験は困難であったが、それでも気泡はグリセリンの中に閉じ込められたまま落下すること、液滴は気泡のトラップ位置を避けるようにして落下することが観察された。これはグリセリンが音場の節の位置に向かってBjerknes力を受けていると解釈される。
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