研究概要 |
サンドエロージョンは,各種流体機械にとって致命的な現象である.流路の曲がり部で発生するサンドエロージョンでは主流方向およびスパン方向に周期的な波状のエロージョン・パターンを呈することが知られているが,このようなパターンを生み出している流体力学的なメカニズムは未だ解明されていない.本研究は,申請者がこれまでに開発してきたサンドエロージョン数値予測プログラムを用い,この波状サンドエロージョン・パターンを発生させる物理的メカニズムを明らかにすることを目的としたものである.本研究の特色は,サンドエロージョンをマルチフィジックス現象として厳密に取扱う点,すなわち流体挙動,微粒子挙動,壁面形状それぞれの変化を時々刻々連成させてシミュレーションを行う点にある.本研究により波状サンドエロージョンの物理的メカニズムが明らかとなれば,航空機,船舶,ターボ機械などにおいて発生するサンドエロージョンの抑制を通じて,これら機械の性能維持や長寿命化に大いに貢献でき,最終的にはエネルギー・環境問題に寄与するものと考えられる. 平成17年度は,平成16年度に開発したプログラムを利用して,圧縮機動静翼干渉場における波状サンドエロージョンの発生メカニズムの解明を試みた.3次元圧縮機動静翼干渉場における乱流場,粒子軌道,エロージョン量,壁面形状変化に関する4種類の数値計算が反復的に実行され,エロージョンの時間進行過程が再現された.流れ場計算には3次元圧縮性乱流を仮定して差分法が,粒子軌道計算には個々の粒子を追跡するラグランジュ法が,エロージョン量の評価にはネイルソン・ギルヒリストのモデル(1968)がそれぞれ採用された.計算格子は動翼,静翼および両翼の壁面内に対して設定され,動静翼間の情報交換には重合格子法が用いられた.使用した計算格子の総数は約300万点である.計算結果を可視化することにより,明瞭な波状サンドエロージョンの発生は再現できなかったものの,エロージョンが集中するのが動翼正圧面の前縁かつチップ側であること,動翼内での粒子衝突による減速のため動翼下流にある静翼ではエロージョンがほとんど発生しないこと,粒子が遠心力によりチップ側へ集中していくこと,静翼下流側で粒子の再加速が起きるためさらに後段ではチップ側でエロージョンが発生する可能性が高いことなどが明らかにされ,圧縮機動静翼干渉場におけるサンドエロージョン発生のメカニズムに関して多くの有益な知見を得ることができた.なお,本研究の成果の一部は,平成17年6月にヒューストン(米国)で開催された第10回固気混相流シンポジウムおよびボストン(米国)で開催された第3回MIT Conferenceにおいて研究発表された.
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