研究概要 |
ハロン代替消火剤であるハイドロフルオロカーボン(HFC)の性能評価及び反応機構解明に関するこれまでの研究の多くは高温で行われており,600〜1000Kの低温におけるHFCの化学的挙動は未だ明らかではない.本年度は反応装置として急速圧縮機(RCM)を新たに製作するとともに,これを用いて反応速度に密接に関連する着火誘導期(τ)の測定を行うことにより,低温燃焼に及ぼすHFC消火剤の添加効果を検討した. HFC消火剤無添加のイソブタン着火のτは温度が下がるにつれて単調に長くなり,着火しにくくなった.これに既存HFC消火剤である2H-ヘプタフルオロプロパンを添加するとτは長くなり,着火が抑制された.しかし,フッ素化されていないプロパンを添加した場合でも同程度の着火抑制効果が見られたことから,HFC消火剤独特のフッ素による化学的抑制作用は低温においては現れなかった. 一方,ノルマルブタン着火のτはイソブタン着火のそれと傾向が異なり,温度が下がると逆に着火しやすくなる,いわゆる負の温度係数領域(NTC,720〜780K)の存在が確認できた.これに2H-ヘプタフルオロプロパンを添加すると,NTC領域において抑制ではなく逆に着火が促進された.NTC領域においては,(1)燃料から生成したアルキルラジカルに酸素分子が付加してアルキルペルオキシラジカル(ROO・)を生成し,(2)水素の分子内転位によりヒドロペルオキシアルキルラジカル(・R'OOH)に異性化し,(3)これが分解して生成したOHラジカルが連鎖担体となって燃焼反応が進むと考えられている.2H-ヘプタフルオロプロパンの促進作用は,(2)に加えて反応(1)のような2分子過程が並行して起こることにより,OHラジカル源である過酸化物の生成を促すためと考えられる. n-C_4H_9OO・+CF_3CHFCF_3→n-C_4H_9OOH+CF_3CFCF_3(1)
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