本研究の実施計画は、(i)実機の定着ローラユニット通紙実験を行い、紙・ゴムローラ間の摩擦力特性を調べるとともに、紙の種類や紙の拘束などが紙しわ発生に及ぼす影響を実験的に明らかにする。(ii)2個のゴムローラおよび紙から成る2、3次元の紙搬送モデルについて、FEM汎用解析ソフトMARCによるシミュレーション法を確立する。(iii)いくつかの紙しわ発生モデルについてシミュレーションを行い、紙しわ発生またはその予兆を確認する。あわせて、紙しわ発生低減のための指針を示す、となっている。こうした計画に沿って研究を進め、以下の成果を得た。 (1)紙・ゴムローラ間の動摩擦力は、すべり速度の増加とともにゼロから急激に立上り一定値へ漸近する。その立上りは、ゴム硬度、ローラ周速、ローラ押付け力が大きいほど、急になる。 (2)一対のローラで紙搬送を行う2次元、3次元モデルについて、FEM汎用解析ソフトMARCによるシミュレーション手法を構築した。 (3)(1)の摩擦力特性を用いてゴムローラによる紙搬送のシミュレーションを行ったところ、実験とほぼ同じ紙速度が得られた。 (4)ゴムローラ外周の線素は押付け部(ニップ)で伸び歪を生じ、その表面速度(紙搬送速度)はローラ周速(公称)より早くなる。この歪の平均値は、ローラ単位長さ当たりの押付け力をヤング率とローラ半径の積で除した値に比例する。 (5)水平な定着ローラ軸に対して紙送りガイドを3°傾けて通紙すると、普通紙、セクションペーパには、常に、進行方向に長い紙しわが発生した。傾き1°では、普通紙にはしわ発生が見られず、傾き0°では、ともにしわは発生しなかった。 (6)円筒の金属ローラとゴムローラからなる(2)の3次元紙搬送モデル(紙、ゴム等方性)を用いて、(5)の実験結果のシミュレーションを行った。その結果、傾けた紙が水平なニップへ入る際、紙の両端距離がごくわずか減少し、鉛直方向に変形することがわかった。この変形は紙がニップ中心に進むにつれて押しつぶされ、最終的にしわになるものと考えられる。
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