重水素吸蔵パラジウム板を陰極、金針電極を陽極として重水素ガス3Torrまたは760Torr中で約1時間放電を継続した。その結果、放電中には準平行平板電極で観られた特異なガンマ線は検出されず、ガンマ線放出に関わる核反応励起が放電状態により大きな影響を受けることが分った。放電試行後のTOF-SIMSではパラジウム電極および放電領域の側面方向に置かれた金板の両方の表面には質量数でホウ素と亜鉛の間にある数種の元素が多量に観られる。各質量数には複数の元素や分子が対応し、それら対応元素や分子の計測数を分離するのは困難であるため、同位体存在比の変化はTOF-SIMSの結果だけでは判断できないことが分った。さらにパラジウム板を基盤として酸化カルシウム薄膜とパラジウム薄膜の3層膜を形成し、その上に微量セシウムを載せた陰極試料を用いて重水素中と窒素ガス3Torr中でグロー放電を1時間継続した。この試料に対してICP-MSによる元素分析を行ったが、他の研究者が報告しているセシウムからプラセオジムへの核変換は認められなかった。また、補足実験として金表面修飾を片面に施した重水素パラジウムに直流電流を流した場合の温度変化を調べた。その結果、金修飾側に電流端子を設けた場合に異常温度変化が起こることが分った。これらの研究を通して、パラジウム試料のクリーン度が反応誘起のために極めて重要であることが分った。テストセル内部やガス流通経路は極微量でも油成分に汚染される真空系は使えず、ガスがプラスチック類と接触する構造も避けなければならない。部材はいずれも耐熱処理を施し、他の領域からの表面拡散による試料表面の汚染を避けなければ核反応を誘起できないことが分った。
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