これまで酸化物超伝導体の交流通電損失測定を目的としていくつかの酸化物超伝導トランスを製作してきた。これらのトランスは変圧比が極端であるにも拘らず、二次側が酸化物超伝導テープで作られており抵抗が低いため結合がよく、1Hzというかなり低周波数でも動作することが確認できている。したがって直流四端子法に相当する臨界電流密度測定をすることが可能であると考えられる。そこで、本研究ではこのトランスを使って、さらに低周波での動作や、ある程度の時間内での直流動作ができないかどうか検討を行うことにした。つまり一次側の電流をコントロールして、二次側での電流が一定になるようにする。こうした動作が長時間可能になれば、たとえばNMR用超伝導マグネットの最も内側に取りつけられている酸化物超伝導マグネットで発生する磁界を一定にするといったアプリケーションが実現できると期待される。 実験には設計値で二次側に500Aまで通電できるトランスを用いた。二次側は銅板と超伝導テープにより短絡した。一次側の電流はシャント抵抗を用い、また二次側の電流はあらかじめロゴスキーコイルにより較正したホール素子からの電圧と、二次側の銅板の両端の電圧を用いて評価を行った。トランスは液体窒素中で冷却して実験を行った。二次側の電流をADコンバータを通じてコンピュータに取り込み、次の一次側の電流値の計算をおこなったあとに、DAコンバータを通じて一次側の電流源に送り、電流を制御した。その結果、二次電流の最大値、精度やその維持時間はかなり制限されるものの、一定値にすることができた。またその様子は簡単な回路方程式により説明することができたが、完全ではなかった。この理由は、超伝導トランスの結合係数が電流値により変化するためではないかと考えられる。
|