前年度に500Aクラスの超伝導トランスを用いて直流通電を試みたが、もともと大電流を得るために設計されていた交流トランスであったために、十分長い時間にわたっては直流を保つことができなかった。そこで、今年度では電流はそれほど大きくないが、十分な時間にわたって直流の制御ができる超伝導トランスを新たに設計し、試験をすることとした。一次側は0.2mmφの銅線であり、200回巻き線をした。二次側にはB_l-2223銀シース多芯テープ材を用いた。このテープ材の77K、自己磁界における臨界電流は80A以上である。テープ材は巻き線による劣化のない巻き線径で18回巻いた。今回の超伝導トランスでは巻き数比を極端にしておらずまた臨界電流も小さいの、二次側に流れる最大電流はあまり大きくないが、結合係数はよくなると期待できる。 二次側の通電電流は低抵抗のシャントを挿入してその両端に発生する電流から測定した。この電流値を一定にするために、一次側に流す電流を制御する。制御にはPID制御を用いた。その結果、80Aの電流を10秒程度維持することができた。制御は全体で4つの状態に分けることができる。最初は目標の80Aを達成するために急速に一次側の電流が増えている段階である。次に10秒程度の電流を一定にできる時間がある。この間では一次側の電流は徐々に上昇していく。一次側の電流には限度があるので、やがて80Aを保てなくなり、やや二次側の電流は減少する。さらに一次側の電流が12Aに達したところでそれ以上電流値を上げないので、二次側の電流は急激に小さくなる。この結果制御時間は10秒程度の時間となった。また制御の精度は0.4%であり、1ppmというレベルからはかなり離れている。 精度を上げるためには、二次側の電流を精度良く測定する必要がある。次年度はより長時間より高精度に直流電流を得るための工夫を行い、それを実証することを目標とする。
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