静止軌道などの比較的高高度を飛行する宇宙機は、太陽フレアの活動が活発になると、数keV〜数MeVの電子線やプロトンなどの高エネルギー宇宙放射線に曝される。これらの放射線が宇宙機の絶縁材料に照射されると、絶縁材料は帯電し、場合によっては放電事故を引き起こし、宇宙機に一時的、または恒久的な損害を与え、宇宙機の活動を著しく妨げる要因となる。この現象においては照射される放射線のエネルギーが高いため、絶縁材料表面の帯電にとどまらず、材料内部に電荷が蓄積する内部帯電現象であり、その放電事故に至るメカニズムは現在でも明らかにされていない。本研究では、電子線やプロトンの高エネルギー放射線が絶縁材料に照射された際に、材料表面および内部に電荷が蓄積する過程を計測する装置を開発し、実際に放射線を照射した際の電荷蓄積過程を観測した。また、電荷が蓄積した際に、絶縁破壊が生じる原因を調査するために、試料内に多量の電荷が存在する状況下における電界分布と絶縁破壊の関係を調査した。電荷分布の測定には、我々が開発したパルス静電応力法などを用いた。従来の電荷分布測定法では、試料内部の電荷分布のみが観測され、表面に存在する電荷量を測定することができなかったため、開放電極を用いたパルス静電応力法による電荷分布測定装置を開発した。この装置では試料に電極を接触させないで電荷分布を測定することができるため、表面および試料内部に存在する電荷分布を同時に測定ができ、さらに表面電荷による電位も計測できる。また、試料に高電圧を印加することによって試料内部に多量に電荷が蓄積した状況を模擬し、絶縁破壊と蓄積電荷分布の関係をパルス静電応力法により調査したところ、蓄積電荷により発生した高電界が絶縁破壊を誘発することを明らかにした。これら一連の成果により、荷電粒子線照射による電荷蓄積と絶縁破壊の関係を明らかにすることができると予想される。
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